16- 開戦



「ルイス、お前さんは聞分けがいいからな。たまにやんちゃするくらいなら目を瞑ったろうが、こいつぁおいたが過ぎるぜ……?」

 暗い瞳で、ルイスは哀れむように応えた。
「ジーク……貴方なら、解りますよね? 僕らのような、裏社会で生きるしか、選択の余地のない者が、勝者に成り代わる方法を。何者にも文句を言わせない――過去を詮索させず、今ある僕らを正義と認めさせる、絶対の庇護。そう、それは即ち、絶対の権力です」

「あなた、言ってることがおかしいわ」
 言ったのは、フィナ。
 そのしなやかな手先が、手品のように取り出したナイフを、くるくると回転させ、切っ先をルイスに向けたところで静止する。

 黒曜石の瞳を持つ美人が、10メートルほど先で、兵士達の先頭に立つ、麗しい風貌の若者に向けて、舞い手のように軽やかに、すっと立ち、言い放った。
「『庇護』だなんて、それは結局、誰かから享受される、借り物の安息でしかない。自分自身の物ではない何かなんて、いつまた崩されたって、可笑しくは無いのよ!」

 表情を曇らせるルイスに、バルドが追い討ちをかける。

「ルイス。お前が、それで幸せになれるって、ホントに心の底から信じてんなら、その事にゃ何も言わねぇよ。けどよ、お前がどー考えるにしろ、俺自身は、間違っても、そっち側には行けねぇからな……」



 金髪美貌の若者は、静かに目を伏せた。
「そうですか、それが、皆さんの答えですね……」
 あるいは、同時にその心の耳までも、閉ざしていたのだろうか。

 瞳を上げる。
「つくずく、残念でなりませんよ」

 それは、圧倒的な狂気を内に秘めた、竜の目覚めを連想させた。



 ルイスが詠唱を始めると同時に、ゼクトが叫んだ。
「みんなっ!! ぼくの近くに!!」

 砂地に踏ん張り、突き出した左右の掌をクロスさせて、仲間を背後に集めたゼクトは、ルイスの声に耳を傾けながら、自らも呪文の詠唱を始めた。


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