01- 2つの童話
よいこの たのしい おはなし シリーズ 11
= じゆうの そらに =
あるところに、1ぴきの、りゅうがいました。
ひねくれもので、あばれんぼうのりゅうは、ひとびとを、こまらせてばかり、いました。
あるとき、ひとりの、ゆうかんなわかものが、あらわれました。
わかものは、ひとびとをこまらせる、わるいりゅうをたおしに、でかけてゆきました。
りゅうと、わかものは、たたかいました。
きょうぼうな、りゅうは、しっぽをふりまわし、ひをふいて、わかものをくるしめました。
しかし、わかものは、せいなるつるぎで、りゅうのしんぞうをつき、ついに、わるいりゅうを、たおしたのです。
わかものは、おうさまにほうびをあたえられ、おひめさまとけっこんして、すえながく、しあわせにくらしましたとさ。
わかものにたおされた、りゅうのたましいは、よいりゅうになって、そらにのぼり、じゆうになったと、いいます。
もしかすると、おそらをうかんでいる、あのくもが、りゅうかも、しれないですね。
―おしまい―
『 自由の空に【原版】 (作者不明) 』
あるところに、銀色の竜が住んでいました。
竜は、とてもとても強い力を持っていたので、あるとき、人間達は、話し合って、その竜を退治しに行こうと決めました。彼らは、いつ、竜が暴れだすかと、恐くて仕方がなかったのです。
竜は、戦いたくありませんでした。それでも、人間達は、竜を倒そうと、追いかけてきました。
人間達に追い回され、ついに、竜は、暗い、暗い、地の底にたどり着きました。
暗くて深い、闇の底で、竜は、長い間、ひとりぼっちでした。
しかし、ある時、地底に身を隠していた竜の前に、金色の竜があらわれました。
金の竜は、傷だらけでした。金の竜もまた、人間に恐れられ、追われ続けてきたのでした。
それなのに、金の竜は、ちっとも、悲しい顔をしていませんでした。
人間に不審を抱き、心を閉ざして、闇の中で、たったひとり、ふさぎこんでいた銀の竜は、そんな金の竜が、不思議で仕方がありませんでした。
金の竜は、銀の竜を、外に誘いました。
「君は、どうしたの? こんなところにいないで、外へ出ようよ」
銀の竜は、断りました。外に出たなら、また、人間達が倒しに来るに、違いありません。
「でも、外は気持ちいいよ。君だって、太陽が見たくないかい?」
太陽は嫌いだよ、と、銀の竜は言いました。それが、本当なのか、嘘なのかは、銀の竜自身にも、解りませんでした。
「人間達が来たって、大丈夫さ。だって、ほら、僕達には、翼がある。これを使って飛べば、人間達だって、空までは追ってこれない」
ほっといてよ、と、銀の竜は答えました。
だったら、と金の竜は言いました。
「僕も、ここにいるよ」
おかしな奴だなあ、と銀の竜は思いました。そのうち出ていくのだろう、と思って、追い返すのも面倒になり、銀の竜は、金の竜の好きにさせました。
すると、それから何日も、何日も、本当に、金の竜は、暗い地底から出ようとしませんでした。銀の竜には、金の竜が、何を考えているのか、見当もつきません。金の竜が、不気味だと思いました。
しかし、金の竜は、暗い、暗い地の底にあって尚、暖かな春の陽射しのように、穏やかに、ただ、銀の竜の隣に寄添っていました。
やっぱり、銀の竜には、金の竜が、理解できませんでした。
ある日、堪らなくなった銀の竜は、言いました。
「出て行けばいいじゃないか。君は、太陽が好きなんだろう?」
金の竜は、きょとんと首をかしげて、それから、そうだったね、とのんびり答えただけでした。
そして、それからまた何日も、金の竜は、銀の竜の側にいました。
そんなある日、ここを嗅ぎ付けた人間達が、ついに、暗く深い地中まで迫ってきたのです。
金の竜は、自分がやるよ、と言って、銀の竜を、岩戸の奥に閉じ込めてしまいました。
閉じ込められた銀の竜は、何もできませんでした。
銀の竜は、ひとりぼっちでした。
今までだって、独りだった。今までだって、この闇の中で暮らしてきた。
――それなのに。
銀の竜は、泣きました。暗い暗い、岩戸の奥で、初めて、泣きました。
金の竜は、一人で人間達を追い払うと、岩戸を開けて、銀の竜のところに戻ってきて、お別れを言いました。
「僕は、どこか他に行くよ。僕が、ここにいるって、見付かっちゃったからね。でも、大丈夫。君はここにいればいい。僕がここを移れば、人間達は、もう、きっとここには来ないよ」
金の竜は、地の底を去りました。
しばらく時が経ち、昔、ここに竜がいたという噂を聞きつけた勇猛な王様が、地の底に、軍を率いてやってきました。
しかし、そこにはもう、竜の姿など、影も形もありませんでした。
どこかで、自由の空に舞う、二匹の竜の姿を見たという話がありますが、真実かどうかは、誰も知りません。
―お終い―
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