俺は――……………………誰だっけ?






STAGE 21 Who am I ? 〜俺が俺でなくなる日〜



 野外でぼーっとしていたら、ひとが近づいてきた。

 ……ひと?

 ひとって、何だっけ。
 ああいうカタチをしたもののこと?


 そのひとは、いっぱいしつもんした。
 首をかしげてたら、その人は、らくたんしたように頭をかいた。
「やれやれ、この兄ちゃんもか……。ああもう! まったく、どうなっていやがる!!」
「?」
 それから、さっきみたいに早口にならないで、その人は、ひとつだけたずねた。
「ねぇ、君は、どこから、来たの?」
 ――どこから? あれが見えるばしょから、ずっと、歩いてきた。
 なんだっけ、あれは。おっきなたてもの。
「しろ」
「城?」
 その人は、ふしんそうな顔をした。
 しろって、何だろう。よくおもいだせない。
 ……ああ、そっか。おれ、そこに居たんだっけ。そんな気がする。
 しばらく怪しむようにしげしげとおれを見ていたそのひとは、少ししてから、表情をゆるめた。
「ま、なんにせよ、よかったよ。てっきり俺は、きみも、喋れないほど酷いんじゃないかと思ってね。その分なら、大丈夫。この先の、馬で半日ほど行ったところにある避難所に行けば、きみの知り合いも見付かるかもしれない。さ、行こう」
 そのひとに連れられて、俺は『ひなんじょ』に移動した。



 そこには、ひとがたくさんいた。
 半分くらいは、きし――たしか、そう呼ばれる人たち。覚えてないけど、何となく、判る。それから、みんなの面倒を見るひと。のこりの半分は、俺みたいに、記憶が無かったり、もっと元気だったり、あとは、俺よりも酷い、ただぼうっとしてることしかできないひと。
(俺は、まだ運が良かったのかな……)
 俺が、自分の名前を言えないことについて、その場にいたひとたちは、酷くがっかりしたようすだった。だけど、会話ができることについては、誰もが喜んだ。
 すこしすれば、思い出すかもしれない、だいじょうぶ、とその人たちは言った。
 おもいだせるのかな。よく、わかんないけど。



「ライア!!」
 避難所にいたひとりの騎士が、こっちに走って来た。若いお兄さんだ。
 息せき切らして来たその騎士は、俺の様子を見て、何か察したらしい。一瞬だけ、堪えるような顔をした。
「ライア。もしかして、記憶が無いのかい」
 俺がうなずくと、その騎士は、既に覚悟していた様子で、事実を受け入れた。
「そうか――……だけど、よかった。スロウディアとセーミズの間にある山脈付近の町や村は、ほぼ全滅だって、聞いてたから」
「あの」
「ああ、ごめん。自己紹介がまだだったね。僕は――」



 簡易ベッドに横になって、テント地の天井を仰ぎながら、俺は、とりとめのないことに思考を巡らせた。こうして個室をあてがわれたのは、さっきの青年騎士が取り合ってくれたおかげだ。
 あのお兄さんは、アルディス=レンハルトって名乗った。俺の、ともだちで――でも、やっぱり全然思い出せなくて。でも、俺の名前がライアだって、教えてくれた。
(はやく――思い出さなきゃ)
 もしああやって、他にも、俺の家族や知人がいるのなら、忘れたままというのは、その人達に申し訳ない気がする。
 アルディスさんは、焦らなくていいって言ったけど……ほんとに、いいのか?
 どうやら、じってしているのは性に合わないらしい。記憶にはなくても、体が覚えている。
(俺はまだ、自我もあって意識もはっきりしてるから、テントからの出入りは制限されてないし――外の空気吸ってこよ)
 思い立つが早いか、俺はベッドから下り立っていた。



 とりあえず、忙しそうな騎士や世話役の人達の邪魔をしないように移動して、そこで、俺は他の避難民につかまった。
(げ)
 反射的に引きそうになったが、どうしてかはさっぱり解らない。よく見てみれば、普通の可愛い女の子だ。別に、近づいて来られてまずい理由なんてなさそうだけど。
「ねぇ、あなた」
 その子は、よく通る声で話しかけてきた。
「見たところ、保護されてる側の人間よね? で、――喋れる?」
 何を思ってのことか解らなかったが、ひとまず俺は肯定した。最初に見た時、反射的に引きそうになったけれど、この子の押しの強さを直感的に感じ取っていたのかもしれない。
 すると、女の子は目を細めた。
「よかった! 退屈してたの。丁度話し相手が欲しかったんだけど、ほら、あれでしょ?」
 そう言って、女の子は忙しなく働いている保護する側の人々を指し示した。
 強引な誘いではあった。だけど断る理由もないので、俺は同席する事にした。
「私は、フローレンスよ。って言っても、ここの人達が勝手につけてくれたんだけどね」
 いい名前でしょ、と訊かれ、俺はちょっとだけ答えに困った。
「え、あ、あぁ……そうだな」
「えー、何その反応」
 フローレンスは、不満そうに下から俺の顔を睨んだ。
(どこのお嬢様だよ……)
 見た目から、ぱっとそう思える感じだ。少しだけ、小生意気というか、気の強そうな印象を受ける。

「そっか……あなたも、記憶が無いんだ」
 その時ばかりは、流石にしんみりとフローレンスが言った。
 俺は、話を続けた。
「正直……疑うのは悪いと思ってるけど、本当に俺がライアなのか、アルディスさんが本当に友人かも――わかんないんだ、全然……」
 俯く俺に、隣に座っていたフローレンスは少し身を離して、俺の頭から爪先までを視界に入れると、満足そうににっと笑った。
「じゃ、とりあえず私が、信用できる友達第1号ってことで!」
「は?」
「なによ。知り合いもいない土地で、独りさびしーく黄昏れてたあなたの友達になってあげようっていうんだから、光栄に思いなさいよね」
(おいおい……俺が、黄昏てた?? ……いいや。なんだか、細かいこと気にし出したら、負けな気がする……)
「わかったよ――よろしくな」
 なかなかに無茶苦茶な理由付けだったが、知り合いもいない避難所に放り込まれ、まして記憶がないというなら、彼女の方こそ、どんなに小さくても、確かな繋がりを求めていたのかもしれない。俺は、そう思い直した。
(俺はまだ平気だけど。あっちは女の子、だしな)
 空がオレンジ色に染まる頃合だったので、俺は、フローレンスと別れて、自分のテントに戻った。



 女性の6人用テントの中で、少女はひとり、闇の中で震えていた。既に夜半を過ぎ、疲れ果てた他の難民達は、とっくに眠りに落ちている。
(どうして……私だけ)
 少女は、配布された毛布にくるまって丸まったまま、しっかりと目を開けていた。
(みんな、あんな風になっちゃったのに――どうして、私だけ平気なの!? なんで……っ、記憶だって、すぐに戻って、でも、周りの人たちは――)

『――……(まったく、不自由なもんだぜ)』
 少女を怪異から救ったこの世の者ならざる存在は、言葉も届かず、ただ黙って見守るしかないこの状況を、誰よりもどかしく思っていた。せめて声が届くなら、元気付けてやる事くらいできたのに。
『(おれが死後、こんなになってどれ位経つんだ? 怪異のせいで、いきなし生前の自我が戻ったと思えば、触れらんねぇし、声も出ねぇ。こりゃぁ、いわゆる……ユーレイ状態、って奴かぁ? しぃっかし、あん時の怪異、ありゃ、一体何だってんだ――? 精霊んなったおれの全力を持ってしても、嬢ちゃん一人を庇うのが限界だった)
 ふと、彼がまだ人間だった頃、遠い昔の、戦友が頭をよぎった。
『(あいつも、まだ消滅しちゃいねぇだろうなぁ? だとすると、向こうもおれみたく、本来戻るはずのねぇ、人間ときの記憶が戻ってんのか……?? ――わかんねぇ。くそっ!! 何から何まで、わかんねぇコトだらけだぜっ!!)』
 彼は、触れられない机をばしばし叩きながら、一人焦れた。



 あれから、数日が過ぎた。俺は、手が空くと訪ねて来てくれるアルディスさんから、少しずつ、覚えていないことを教えてもらっている。避難所でときたま顔を合わせるフローレンスとは、声をかけられたり、こっちから声をかけることもあった。
 俺がここまでに理解した現状は、こうだ。
 俺の住んでいた地域で、何か大変な怪異が起きたらしい。何らかの大掛かりな魔法によるものかも知れず、調査をしようにも、まだ、原因が解るまでは、人が近づくのを見送っている状況らしい。
 連絡が途絶え、全滅が予想される怪異の中心地以外にも、その影響は及んでいた。
 記憶を失くしたり、喋れなくなったり、程度の差こそあれど、ここに自主避難、あるい移送されてきた人の大半は、そういった周辺地域の住民だ。同じ町の住人でも、症状に個人差が出ていることから、魔法による怪異である疑いが強いという。
 現在、スロウディア城下、セーミズ城下、それに城下から程近い宿場街などとは、ここ一週間、完全に連絡が途絶えている。被害の中心地に居た俺が助かったのは、奇跡のようなものだと聞いた。今のところ、城下で無事だった人間は、俺以外に発見されていない。俺の周りにいた人間は、みんな、どうなってしまったかわからないままだ。
 この話をする時、アルディスさんは辛そうにしていたけれど、逆に、俺自身は家族の顔も、友達の顔も、親戚の顔も、全く思い出せなかったから、いまひとつ実感が無かった。ただ、ぼんやりと理解したことは、俺が、ひとりぼっちになったってこと。
 ただ、こうして周りに人は沢山いたし、アルディスさんだって友達だというなら、ひとりぼっちとは、少し違ったかもしれない。

 朝食後、経過した時間からして、そろそろかな、って思った。
(あ、来た)
「おはよう。どう? 調子は」
 今日も、アルディスさんは話しに来てくれた。一遍に色々なことを教えられても俺の頭が追いついていかないから、話してくれる内容は、毎回少しずつだ。それでも、俺の理解が及ばないところを辛抱強く情報を補いつつ説明してくれるおかげで、俺はだいぶ、自分自身の事と状況とを理解しつつあった。
 だけど、肝心なことをまだ教えてもらっていない気がする。俺がなんで城に居たのか、なんて訊くと、あいまいな答えでいつもはぐらかされてしまう。
 それと、気にかかる事が一つ。俺が名前を呼ぶと、アルディスさんはよく苦笑する。呼び捨てでいいよって言ってくれてるけど、見た感じ年上だし、何も思い出せていないのに呼び捨ては気が引ける。それに――なにか、違和感があるんだ。『アルディス』って呼ぶのには。
(本名――なのか? けど、俺に偽名教えたところで、何の得も無いよな?? 周りの人だって、ちゃんとアルディスって呼んでた……っけ? あれ?)
 何一つ自分で判断できない自分が、情けなくなる。早く思い出したい。俺が、誰なのか。

 しばらく話をして、アルディスさんは立ち上がった。忙しい合間を縫ってこうして訪ねてくれるのだから、感謝しなくてはならない。
 別れ際の挨拶を交わして、テントを出ようとしたその背に、俺は何か言おうとした。
 言葉が出てこない。あと少し。すぐそこまで来て、そこで引っ掛かっている。
 その瞬間、唐突に閃いた。
「アルド!」
 アルドが立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
 お互い、その顔に笑みはない。慎重に、真剣に、視線を交わした。
 名前を呼んだだけじゃ、判断材料には乏しい。多分アルドは、そう思ってる。
「ごめん……っ、俺……っ」
 その先は、言葉にならなかった。押し寄せてきた恐怖と混乱が、涙となって溢れ出す。嗚咽を洩らしながら、俺は、今までどこかでつかえていたものをぜんぶ吐き出した。
「急に、ものすごい頭痛がして――気がついたら、俺以外の全員が、くすんだ絵の中の人みたいに、色のよく判らない彫像みたいに動かなくなって……。城に交渉に来てた商人も、役人も、父さんや、キアや、母さんも……先生も、街の人達も、みんなッ……!!」
 アルドの暖かい手が、思い出したばかりの記憶の波に呑まれそうだった俺の肩を叩いた。
「うん……。よく、ひとりでここまで頑張って来たね。大丈夫、思い出すのは、ゆっくりでいいから。まずは、落ち着いて」
 二、三度深呼吸をして、俺は涙を拭わないまま、感情の無い声で続けた。
「何が起こったのか、俺にも判らない。あの直後は、俺自身、ほとんど忘我状態で、無意識に、去年城を出たときの道を辿って、この近くまで歩いて来て、そこで見つけてくれた騎士の人に保護されて――」
 よくあの状態で私物を取って来られたものだと、我ながら感心した。現在の手持ちは、家出の時使っていた鞄と、ベルトで固定する道具入れ、そして、剣。
 混乱がおさまり、今や状況を完全に把握した俺は、かすれた声で言った。
「夢じゃ……ないんだな――?」
 半ば絶望を覚悟した俺の問い掛けに、アルドは答えなかった。それが、答になった。
「今日は、休んで。――また、来るから」
 言い残して、アルドはそっとテントを出て行った。おかげで俺は、人目を気にせず存分に泣く事も、十分に思案することもできた。
 しかしこんな状況でも、昼になるとしっかりと腹の虫は鳴いてくれて、俺は腹の虫に文句を言いたくなった。
 そして、昼食を取った後で、俺はある人を捜した。まだ、避難所のどこかに居るはずだ。
「!」
 目的の人影を認め、俺は、よし、と意を固めて近づいた。



「あら、ごきげんよう」
「…………」
 不意にあちらから先に声をかけられて、俺は反応に窮した。
「リーティス……」
「え?」
 この至近距離でも、届くか届かないかの呟きであったから、向こうが怪訝そうに首を傾げたのも、無理はない。
「いや、なんでもない」
 そう断って、俺はいつものように話を始めた。お互い、嫌でも何もできない時間だけは無駄にある。
 記憶が戻った旨を報告すると、フローレンスは、少し寂しそうに笑った。
「思い、出したんだ?」
 その横顔は、俺の知っている人間に、よく似ている。
 もっとも、本人なら、こんな顔なんて滅多にしないだろうけど。
(記憶が抜け落ちてるせいなのか――? それとも、やっぱ、赤の他人か――)
 姉妹か親戚というなら、それ以上に納得のいく説明はなかっただろう。
 考え込むようにしていたフローレンスは、それから、ぱっと顔を上げて、まじまじと俺の顔を見た。
「ね。貴方が思い出したってことは、私も、思い出す可能性はあるってことよね?」
「そうだな。そう思う」
 それ以上、励ますようないい言葉は見つからなかった。こんな時、アルドやフェリーナなら、もっといい言葉が返せただろうに。
 しかし、ともかくもフローレンスは気力を得た様子だった。彼女は改めて、俺に尋ねた。
「でも、よかったじゃない。記憶が戻って、どう? 嬉しい?」
 記憶を取り戻そうとしている女の子に、こんな話はすべきでない。判ってはいたのだけれど、 「嬉しく……は、ないかな。むしろ、記憶が無かった時よりも……恐い」
 俺は、フローレンスがその人に似ているせいか、正直な感想を口にしていた。
「前は、現実味がなかったんだ。アルドに状況を聞かされても、ただ漠然と、ああ、大変なことが起こったんだな、としか思わなくて」
 大丈夫。震えずに言える。
「でも、今じゃ解る。これが、どんなに異常なことなのか」
 フローレンスは驚いたようではあっても、怖がる様子は見せなかった。俺は、ひとまずそのことにほっとした。
「だけど、どんな事情があったって、忘れちまったままより、よかったと思ってる。俺は、俺だったって、はっきりしたし。そっちも、早く、思い出せるといいな。俺にできるようなことなら――手伝うから」
 本心だった。役に立てるなら、少しだって力になりたい。
「ありがとう。でも、どうして?」
 なかなかどうして、答えにくい質問をしてくれる。
(お前とよく似たやつに、何度も――助けられたから)
「……友達だろ?」
 口から出た言葉は、本音を裏切り、ありきたりだった。
 不意を衝かれた様子のフローレンスは、弾けるように破顔した。
「あははっ、そうだった。じゃ、困った時は、遠慮なく助けてもらっちゃうから」
「ああ。そーしてくれ」
 フローレンスを見ていると、どうしても、その面影がちらつく。
(違う。他人かもしれないんだ。だけど――それでも、もし、俺が力になれるなら……何だって、するから……)



 少女はもう、震えながら夜明けを待つ事はなかった。
(大丈夫――ひとりじゃ、ないから)
 頼れる人間を二人、確保した。一人で困難に立ち向かう事を思えば、二人だって充分だ。後は、どうやって彼らを巻き込むかだ。
 床に入った後も、彼女はしばらく思案を続けた。

 そしていよいよ、運命の日が訪れようとしていた。



 怪異の原因を突き止める動きが本格化し、調査隊の公募に、アルドが志願した。
 それを聞きつけて、黙っていなかったのがライアだ。
「俺も行く」
 避難所に残るよう、どんなにアルドが言い聞かせたところで、ライアは頑として聞き入れなかった。ライアの身の安全を考え、アルドは、ライアの正式な身分を他に伏せている。だから今、ライアは城下の一市民という事になっていた。
「だからね、ライア。何度も言うけど、君も保護対象である以上、連れてはいけないんだよ」
「保護ったって……俺はもう、平気だ。どこも悪くない」
 ライアは食い下がった。アルドはいつも、友人として以上に、王族に尽くす騎士としてライアを守ろうとする。けれども今回、それは通用しないと示すために、ライアは思い切って脅迫に出た。
「国を無くした王に、何の意味がある?」
「違うよ」
 冷静に、アルドは切り返した。
「身分どうこうの問題じゃない。僕と違って、君は戦うことを専門としていない。アルカディアで、僕は言ったね。君を置いていくこともあるけれど、それは解って欲しいって。悪いけど、今回の件こそ、まさにその時なんだ。素人は巻き込めない」
 アルドの言い分にも一理ある。そしてやはり、本心では王子であるライアを巻き込みたくないという理由が大きかった。
 不意に、赤い瞳が挑発的にアルドを見た。
「いいのか?」
「――!?」
「アルドが行ったあと、俺、勝手にここ抜け出して、どっか出てっちゃうかもしんないぜ?」
(まさか。いくら君だって、そんな無謀な…)
 そこまで思いかけて、アルドははっとした。
 もし、何らかの要因がそこに働けば? 例えば、この避難所に、怪異に関する何らかの情報がもたらされたとしたら。さもなくば、無茶も無謀も共にする、協力者を得たとしたら――……
 後者に関して、アルドは並々ならぬ不安因子を抱えていた。
(他人の空似、……だといいけど。けど、万が一――)
 万が一にも備える、それが、正しい騎士のあり方だ。
 かと言って、簡単にライアの同行を許す訳にもいかない。
 アルドは、あまり使いたくない切り札を明かした。
「そんな事言うと、君の正体をばらしてでも、監視下に置かなきゃならなくなる。――お願いだ。僕を困らせないでくれ」
 以前のライアなら、ここで引き下がったかもしれない。だが、帰る場所も失った今となっては、じっとしているのは、とても耐えられそうになかった。
「だとしても、やる事は同じだ」
 監視をつけようが、つけまいが、置いて行くなら勝手にする。そういう意思表示だ。
 しばらくライアを見て、それから、アルドは言った。
「……それはつまり、僕が連れてって見張ってたほうが、まだ少しは無茶も控えるってことかい……?」
「そういうこと」
 ずけずけと答えたライアに、アルドは深くため息をついた。
「僕、君の保護者じゃないんだけど?」
 微笑を浮かべつつも、笑っていない目で試すように述べたアルドに、ライアは真剣な眼差しを返した。
「……――わかった。一応、上に掛け合ってはみるよ。でも、もし許可が下りなくても、がっかりしないでよ」
 そこはアルドの責任ではないので、ライアも大人しく了承した。ただ、できる事なら、正式な許可を受け、事を荒立てずに旅立ちたいところだ。



 どのように交渉したのかは知り得ないが、果たして、アルドの申請は通った。
 ライアが健常者であること、また、これだけの非常事態であることが大きく働いたのだろう。
 出立は、明日の早朝の予定だった。しかし、そこで思わぬアクシデントに遭遇した。

 ライア達が、歩きながら明日からの予定を話し合っていると、後ろから声がかかった。
「待って!」
 そこには、ライアの姿を見つけて追いかけてきたのか、息を切らせた金髪の少女の姿があった。
「君は――」
 直接話した事のない少女の名を、記憶の断片から手繰り寄せようと苦心するアルドの横で、ライアはあっさりとその名を口にした。
「フローレンス。どうしたんだよ、こんなとこで?」
「聞いたわ。あなた、異変の調査に行くんですって?」
 やはり、ライアが知るその人とは、どこか微妙に言葉遣いが違う。
 フローレンスは、なぜか怒ったようにライアを睨んでいた。その理由を、ライアは、今の今までそのことを秘密にしていて、友達だと言っておきながら一人にしてしまうことを怒っているのだろうと解釈した。だから、せめてもの誠意を表し、正直に話した。
「ごめん。今日中には伝えようと思ってたんだけど……」
 フローレンスは、ライアと、隣の青年騎士とを、値踏みするように交互に見た。
「私も連れていきなさい」
「はぁ?」
 呆気に取られるライアの横で、アルドは、厳しい口調でフローレンスを諌めた。身を守る手段も持たない少女には、これから始まろうとする旅は、あまりに過酷すぎる。
 フローレンスは意外な強情さを発揮して、自分の意見を譲らなかった。自分は被害者なのだから、何が起こっているのか確かめに行く権利ならある、剣くらいは扱えるから邪魔にはならない、というのが彼女の弁であった。
 渋い顔のアルドを横目に、ライアは口を挟んだ。
「どうしても、怪異の原因を突き止めたい――そう言うんだな?」
「当たり前よ! だって、セーミズは多分、私の生まれた国なんでしょ? それをこんなにされて、黙ってここで待っていろって言うの!?」
 育ちの良いお嬢様に見えた彼女は、思ったより、激しい気性の持ち主だったらしい。
「アルド」
 ライアの呼びかけにも、アルドは駄目だと首を振るばかりだった。
 そこで、ライアは提案した。
「じゃ、こういうのはどうだ?」

 ライアが提示したのは、アルドと剣で勝負して、連れて行ける腕であるかをアルドに判断してもらうという条件だった。記憶もない不安定な状態の少女を連れて行くことに断固反対のアルドは、最初こそ嫌がったが、すぐにそれを承諾した。
 細腕の少女相手に、本気でかかるアルドではない。それでも、アルドが負ける事は考えられなかった。ならば、いくらでも、フローレンスを連れて行けない理由を作ることはできる。
 一方で、ライアにはライアの考えがあった。
(太刀筋を見りゃ、一発で見分けがつく。人違いならともかく、もしお前だったら、覚えてんのに知らないふりをするくらい、簡単にやってのけるだろ?)
 フローレンスがライアの知るその人で、記憶が無いのも事実というなら、連れて行くのは考えものだが、それはその時考えよう、とライアは思った。
 ライアが貸した剣を手に取って、少女は、これでいい、と無言で首肯した。

 かくして、避難所の外れの空き地で、試合は開始された。
 対峙した二人が構えを取り、フローレンスが先制を仕掛ける。それを流したアルドが、更に続いた突きを、大剣で器用に捌いた。と、その時、そう遠くない場所で見張りの兵士が叫んだ。
「敵襲だ! 上空に気を付けろ! 少ないが巨鳥類もいる!!」
 騎士が駐屯すると知って仕掛けてくる賊もいないだろうから、襲ってきたのは明らかに野生の獣か魔物の類だ。
 にわかに辺りが騒々しくなる。慌てふためく避難民たちを数人が誘導し、残りの騎士達は、武器を手に、慌しく急襲の現場へと集結つつあった。
「ライア!」
「ああ!!」
 どうやら現場は近そうだと悟ったアルドとライアは、頷き合う。そこへ、ライアが返してくれと言う前に、フローレンスの方から剣を押し付けられた。
「魔法は大して使いものにならないんだから、それ無いと、あなた全然駄目でしょ!」
 そう言って、フローレンスは、他の避難民に混じってテントの方へ駆けていった。
 賭けに勝った気分で、ライアは会心の笑みをアルドに向け、アルドは肩を竦めた。

(――あった!)
 彼女は避難したのではなく、自分のテントに隠した剣を取りに来ただけだった。
 目的のものを携えて外に出てみると、騒ぎは既に沈静化しつつあるようだった。
 似たような襲撃は、ここに来てからもう何度か起きていた。この付近を縄張りとする獣や危険な魔物への対応は、騎士達も馴れたものだった。
 近くの空に魔物の影が無いのを見て取って、自分の出る幕ではないと察し、彼女はそっと、剣を元のように隠した。

「大丈夫!?」
 いかにも、今まで避難していましたといった風に、フローレンスは二人に駆け寄った。
「ああ。心配しないで。今回の襲撃で、けが人は出なかったみたいだ」
「そう……」
 フローレンスは、安堵したように両手を胸に押し当てた。そのしおらしい仕草に、ライアは笑いを噛み殺すのに必死になり、それでも若干、にやけてしまった。
「あなた、一体何がおかしいの?」
「別に。……似合わなっ……!」
 今にも抱腹絶倒しそうなライアを脇に除け、アルドがフローレンスの前に立った。
「途中で中断されちゃったけど、さっきの試合、続きは、もういいよ」
 それには、フローレンスだけでなく、ライアまでもが焦った顔つきになった。しかし、続く言葉は、彼らの予想に反した。
「一応、形(かた)はちゃんとしているみたいだ。君には、これから医師のところに行って、旅に出られる安定した精神状態だってことを、きちんと証明してもらうよ。無論、僕もその場には立ち合わせてもらう」
 それから、声を落として、アルドは確認した。
「ただし、一芝居打ってもらうよ。――できるかい?」



 ライア達を含め、十を越える調査部隊が、各地に派遣される運びとなった。
 今回、怪異の正式な調査依頼を請けるのは、正騎士アルド。その同行者として、無名の剣士、ライアが登録された。二人は調査の行きがけに、記憶を取り戻して帰郷する少女の護衛の役目を担っている。彼女は、セーミズの親類を訪ねた際に怪異に巻き込まれたが、記憶が戻り、容態も問題なしと診断されたので、家に帰る許可が下りた。……という事に、なっている。
 フローレンスは、精神科医の前で、アルドの事前の指示通りに演じ切ってみせた。彼女は記憶を取り戻した一人の少女として、『帰郷する権利を』見事、勝ち取った。
 無論、それは建前で、彼女も非公認の調査の同行人である。それを知るのは、アルドとライアのみだった。
 避難所を出てから数時間が経ったかという頃、それまで変わりのなかったフローレンスの表情が、みるみるうちに萎れていった。
「ごめんなさい!」
 そう言って勢いよく頭を下げられたところで、男二人は、困惑したというより、むしろ今更、といった風に顔を見合わせた。
「私、本当は――記憶が無いなんて、大嘘で!」
「わかってるよ」
 アルドの穏やかな返答に、彼女は顔を上げた。
「……え?? 嘘。だって、今まで一言だってそんな事……」
「アルドが、見ず知らずの、しかも記憶の無いの女の子を、危険な旅になんて連れてくかよ?」
 アルドにもばれていたと知って顔を赤くしながら、彼女はなぜか、ライアを睨んだ。
「むぅ〜……! 気づいてたんなら言いなさいよ!?」
「そっちが名乗んなかったんじゃねーか!?」
「タイミングってものがあるの! こっちは花も恥らう乙女なんだから、そっちが気を遣いなさい!!」
「はぁ? 何だそれっ!?」
「ライアの癖に!」
「よけー意味わかんねぇッ! 俺が何だよ!?」
 まあまあ、とアルドが止めに入る。
「だけど、変わらないね。なんか、安心した」
 アルドの意外な一言に、言い争いはぴたりと止んだ。相も変わらず、そんな所だけは息ぴったりだ。
「ごめんね。ほんとは、大人の僕が、弱音なんか吐いちゃいけないんだろうけど。あんな事があって、僕の周りの環境も、がらりと変わってしまった。だからもう、前みたいには戻れないんじゃないか――って、思ったんだ。だけど、二人が元の調子でいてくれたから……言いようも無く、ほっとしたんだ」
 年少組はきょとんした後、互いに顔を見合わせ、リーティスが先に強がりを言った。
「まぁ、3人もいれば、どうにかなるでしょ?」
「だよな。絶対、スロウディアを、それにセーミズを、もとに戻して見せようぜ!」
 まだどこか空元気の二人に応えるように、アルドは力強く頷いた。
「うん。僕も、全力を尽くすよ。だから二人とも……力を貸してくれ」
「「今更、だろ/でしょ?」」
 声が被った瞬間、迷惑そうに相手を見て、ふん!と同時にそっぽを向く。
 はたから見れば以心伝心な二人に、アルドは可笑しそうに笑った。そして、思う。
(ほんとうに――よかった。今、ここにこうしているのが、きみたちで。……僕はいつだって、守ろうとしていた。だけど案外――守られてるのかも、知れないね)
 だからこそ、彼らが駄目になりそうな時には、支えになり、力になりたいと願う。この先、どんな事が起こるのだとしても。

 夜、野営の焚き火を囲んで、湯が沸くのを待っていた。
 怪異の原因解明の長旅は、始まったばかりである。
 揺らめく炎を照り返しながら、ライアは静かに言った。
「うん……。そだな、話しておこうと思う。俺が見た限りの事を」

 スロウディア城の大広間で、いきなり激しい頭痛に襲われて、目を開けた彼が見たもの。それは。
(これは……なんだ……!?)
 目の前に広がるのは、異様な世界。それまで自分が居たのと同じ場所とは、到底思えない。
 床も、壁も、人さえも、くすんだセピア色の世界に閉じ込められ、静止していた。
 ただ一人、ライアを残して。
「…………」
 恐怖と、混乱。この空間においては、はっきりと色を持ち、体温も、匂いもあって、動くことを許された自身の存在こそ、異質だった。
 全てがくすんだ色をした、薄暗い光の中にひっそりと浮かび上がる周囲の光景は、まるで真夜中の美術館のようだった。
 耳には、絶えず異様な音が響いていた。音程が定まらずに激しく高低を繰り返す、幾重にも重なった、人々の声。いや、風の音か? もしかしたら、何も音がないせいで聞こえる、耳鳴りだったかもしれない。耳障りで、狂いそうな、音階。
(やめ、ろ……っ)
「うぁぁ……っ」
 恐かった。ただ恐くて、自室に駆け込んだ。無意識のうちに、かつて旅を共にした仲間に助けを求めていたのかもしれない。恐慌状態のさ中、旅で使っていた剣と鞄をつかむと、その場から逃げ出した。

 ココにいてはイケナイ。

 自分が誰かすら、その時には判らなくなっていた。ただ、ここに居ては良くないことが起こる。そう直感した。
 セピア色の世界から拒絶されたように、ひとりぼっちの少年は、居場所を求めて彷徨い始めた。



「今でも、不思議だよ。よく、あの状況下で城下町を脱して、騎士の人に見つけてもらえる場所まで行けたなって」
 城で暮らしていた事実はぼかしながらも告げられた真相に、リーティスは、普段あまりしない沈んだ顔になった。
「そう、なんだ……」
 そして今度は、ぽつりと自分の事を語り出した。
「私、記憶が無いって嘘付いたけど――でも、半分は本当。最初は何も覚えてなかったの。それに、今でも怪異が起きた前後の事はぽっかり抜け落ちてて――。だから、セーミズのみんなに何があったのか、本当は何も……」
 様子を見ながら、アルドが助け舟を出す。
「覚えている分にしたって、無理して言わなくていいんだよ。振り返るのは、辛いはずだ」
「ううん、覚えてるとこからは、話しておきたい。その方が、楽になれそうだから」
 アルドはまだ心配そうだったが、ライアが頷くのを見て、リーティスは話し始めた。

 私は、誰?

(さむい――)
 白い息を吐いて小走りに街道を進む一人の娘。上等でなめらかな質感のドレスは、この地方の寒風から娘を守るには、いささか頼りがなかった。まだ秋の初旬とはいえ、セーミズ地方の夜は冷え込む。
(わたしはだれ? ――どこにいくの? 助けて。だれか――たすけて……!!)
 それ以上走ることができず、ふらりと近くの屋根の下に入った少女は、そのままどさりと倒れ込んだ。積み重なったわらの上で、熱に浮かされた瞳が、ゆっくりと閉じられる。

「おいおい、どうしたんだ、こんな夜更けに」
 安眠を妨げられ、不機嫌そうに夫は言った。
 ささやかながらに牧畜を営んで20年以上、夫婦はこのセーミズ南端の地に暮らしている。
 恰幅のいい中年の妻は、煌々ときらめくランプを片手に言った。
「いやね、お前さん、さっきから、裏手の納屋がさわがしいんだよ。ほら、お前さん。そんなとこにぼけっと突っ立ってるくらいなら、様子を見てきてくれないかい」
 迷惑そうに眉をしかめながら、ランプを押し付けられた夫は、渋々、寒風の吹き付ける納屋の方に回った。
(一体、どうしたっていうんだ……メアリーの出産は、まだ半月ほど先だろう?)
 彼らのところには出産を控えた牝牛がいたが、まだ時期は早い。そうなると、この家畜達の騒ぎは、狼か盗人でも入ったのかもしれない。
 そんな想像に青ざめながら、農作業用の鎌を持ち、おっかなびっくりに首を突き出した男は、予想だにしない光景に出くわした。
「……!」
 ワン、と牧羊犬のボブが、尻尾を振りながら真っ先に主人に寄ってきた。
 お転婆娘の牝馬キャリーや、子ヤギのミカエルが、好奇心から覗き込んでいるもの。家畜達に囲まれて藁の上に倒れていたのは、一人の娘だった。

「おや、目は覚めたかい? よかった、よかった! あのままウチの子たちがあんたに気付かなかったら、今朝は凍死していたかもしれないよ」
 沈鬱な表情のまま、娘は答えなかった。彼女は、全てを失っていた。――そう、言葉さえも。
 それには気付かずに、彼女くらいの子供がいておかしくない妻は、明るく言った。
「うーん、まだちょっと熱があるね。ささ、スープをおあがり。体が温まるよ」
 女性に勧められるまま、フランス人形のようなその娘は、おそるおそる、スープをすくったスプーンに口をつけた。
 最初は、自分専用のベッドを娘にゆずり、床に毛布を敷いて寝ることに不服だった夫も、一日もすれば不満を忘れた。
 口を利けなかった娘は、少しずつだが、言葉を取り戻した。その断片から、彼女が記憶を失っていることを知った妻は、娘を家に置いてやろうと言った。これが食べ盛りの男子だったなら、無口で気難しい夫は、首を横に振ったかもしれない。しかし、娘を不憫に思い、情が移りかけていた彼は、妻の提案を受け入れた。
 子供がない彼らに、天が、子を授けてくれたに違いない、と夫妻は思うようになった。
 娘が来てから二日が経ち、熱の引いた娘と妻と朝食を囲みながら、夫がぼやいた。
「近頃は、妙だなぁ。北の方の空が、茶色っぽくくすんだ霧に覆われて、全然晴れやしない」
「おや、そうかい? あたしは気付かなかったけどねぇ?」
 それは、妻が昨日一日、娘の看病をすると言って仕事を全部彼に押し付けて、外に出なかったからだろう、という言葉を飲み込んで、口髭の夫は頷いた。
 実際に、その日も霧が晴れることはなかった。羊達を放牧しながら、仕事の合間に、彼は北の空を、やれやれ、と見上げた。四十年間この地に生きて、このような空は初めてだった。
 夕刻に、突然の使いがあった。それは、北で起きた怪異を受けて、彼らに避難を促すものだった。
「どうしてだい! ここには、あたしらの家族がいるんだよ!!」
 動物達を置いて避難することを最後まで渋った妻だったが、状況説明を受けた夫に促されて、彼女も指示に従った。
 そしてまた、それは、短すぎた彼らの娘との生活に、終止符を打つものであった。

 リーティスはそれから徐々に記憶を取り戻し、暗い顔をする事が多くなった。行き倒れの自分によくしてくれた夫妻に心配をかけまいと、避難所の生活が始まってからは、意識的に夫妻とも距離を置くようになった。
 記憶が戻っても、家のことは誰にも打ち明けたくなかった。だから、記憶が無いと偽り続け、アルドの事も、当然知らぬ顔を続けた。
 そんな時、記憶の無いライアを見つけ、話し相手として強引に捕まえたのだった。

「あー……あの時は、本当にどこのお嬢様だ? って思ったな。覚えてなかったから」
 何、と言って、緑の瞳がライアを睨みつけた。
「私だって判ってたら、お嬢様には見えなかった、って言うの?」
「いやー、だってさ、剣振り回すお嬢様って……別に、信じてないとは言わねーよ。ただ、お嬢様してない時のリーティスしか知らねんだし、仕方ないだろ?」
(つか、俺が王子だ、なんて言ったら、それこそ『頭おかしいんじゃないの』くらい、ゆーだろお前)
 心の中で突っ込みつつ、アルドに話題を振った。
「それで、俺達まず、どこに向かえばいんだ?」
「うん。それを言おうと思ってたところだ。長旅になるよ? 覚悟して」

 アルドの口から告げられた目的地――それは、因縁の大陸、ノーゼ。


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