25- はじまり



「僕も、行きます」
「ルイス!?」
 慌てふためくゼクトに、ルイスは、満面の笑みを返した。
「だって、貴方だって、いつかほとぼりが冷めた暁には、ここに戻って来るおつもりなのでしょう? だったら、一人より、二人まとめて居た方が、生き残れる確率は高いんじゃないですか」
「でも君は……」
「もう沢山です。弁解は聞きません」
 ルイスは、すまして、優雅にはねつける。
「僕が男の格好をするようになった訳、知っていますか」
「?」
 ルイスが、余裕のある眼差しをゼクトに向ける。
「貴方なんですよ」
「僕……??」
 貴方の鈍感にはうんざりです、と、態度で示すように、わざとらしく、ルイスは言う。
「あの時、貴方は、女の子だからと言って、僕を逃がしましたね」
「! そんな、もしかして、気づいてたのか――あの時会ったのが、ぼくだって。『家』で出会ったのは、その何年も後だったのに」
「それは、お互い様でしょう」

「あの日の貴方と、その言葉が、悔しくて悔しくて忘れられなかったから、僕は、あの後ばっさり髪を切りました。それでも女だと、自分の力で見抜けた者は、あのフィナくらいのものですよ」
「そ、そうだったのか……」
 頬を赤くしながら頭をかくゼクトは、気を落ち着けてから、話し始めた。
「でも、あの時は、どういう理由をつけてでも、君を逃がしたかっただけなんだ。もし女の子じゃなかったら、年下だからって、適当な理由をつけて、やっぱり僕が、あの追っ手達を引き付けたと思う」
「そうでしょうね。それでもやっぱり悔しいです。逃がされた方としては」
 追撃の手を緩めないルイスに、ゼクトは降参を宣言する。
「……悪かったって……」
 ゼクトはたじたじだ。まして、口には出さないが、ルイスには、密かに淡い思いを抱いている。その想いは、告げずに去ろうと思っていた。
 そんな人の心中など、お構いなしに、ルイスの一言が刺さった。
「そう思うなら、今度は独りで背負わないで下さい。貴方が駄目だと言っても、絶対に付いて行きますから」
 ゼクトが、顔を上げて目を瞬いた。
 これまで、いつだって付きまとっていた陰が消え、初めて見る、晴れやかなルイスの表情が、そこにはあった。



 ――これより始まる2人の逃走劇。それは、双竜両名の死亡が確認されるまで、実に、2年半にも及ぶ事になる。


  ・ ・ ・ 自由ノ空ニ『争乱編』・END ・ ・ ・


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