21- 激闘去りて



 ルイスの転移魔法は成功し、彼らは、傾き始めた太陽が照らす砂地に出た。

「ふっ……う、くっ……」
 焼け付く砂漠の砂にも関わらず、ルイスは、地面に手を付き、爪を立て、呻いた。

「お、おい、大丈夫か……っ?」
(嘘だろ――)
 バルドは、我が目を疑った。年下で、しっかり者のこの若者が、誰かの前で泣く姿を、今の今まで、目にした事がない。
 痛む上体をどうにか起こして、砂地に胡坐をかいていたジークも、半ば呆気に取られて、瞠目した。
(『あの』お嬢が、ねぇ――)


 意識が戻ったフィナが、ルイスをその胸に抱き締めた。
「大丈夫よ、大丈夫……ゼクトは、帰って来る」
 嗚咽を漏らしながら、ルイスは激しく首を横に振った。
「違う、んです――ゼクトは、帰ってきます。だけど……だけど、僕は――っ」
(また、何もできない。僕だけ、逃がされた、また。あの時と、僕は何も……変わってない……っ)

 いつだって、一番危険な所で、自分だけ行ってしまう。そんなゼクトに、怒りが込上げて来た。
 涙の筋を光らせたまま、どこかを睨むルイスに、バルドが近づいて言った。
「あのよ――ルイス。何怒ってんのか、鈍いオレには、わかんね。けどよ、その……気が晴れねぇんだったら、あいつがひょっこり戻って来たとこ、ぶん殴ってやって、いいと思うぜ?」
 ルイスは、わずかに頷いたようにも見えた。
 そして、フィナに伸ばされた手を取って、立ち上がる。

 彼らは、ゼクトが帰って来るはずの、その場所を目指した。





 1日が経った。
 脚のがたつくテーブルに両肘を付いて、バルドが意地悪く微笑みかける。
 対面に居るのは、いまだ怪我が完治せず、あちこちに包帯を巻いたジーク。
「こちとら若いから、回復力が違うんでね」
「ほっほーぉ? んじゃま、せいぜい、若いもんにはきりきり働いてもらわんとな」
 比較的軽症だったルイスとバルドは、『家』の中で、既に動き回っている。

 フィナとジークは、もろに"R"の攻撃を受けており、実のところ、年齢は関係ない。

 ジークは、年長者の特権とばかりに、バルドに雑務を命じる。
「手始めに、俺の部屋でも掃除してもらうか? んん?」

「ハッ! お断りだ。だぁ〜れが、アヤシイ薬やら道具やら春画やら、恥ずかしげもなく床に散らばせたまま暮らしてるエロ親父の部屋なんか、掃除してやるかっての! 治ってから自分でしな」
 ジークは、上を見て、とぼけた表情で返す。
「おぉ? そういえば、お前さんは、『そういうの』は、ベッドの脇にある黒い棚の後ろの隙間に、きっちりぴったり隠してたんだったな」
「だぁ〜〜〜!?」
「待って」

 ぴたりと、フィナの制止に反応して、会話が止まる。

(外に……誰か――)
 いち早く気配を察し、息を詰めるフィナ。
 静まった男二人も、玄関先で物音がしたのに気づいた。


 果たして、そこに立っていたのは――――


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