15- ルイス



 天然の地下洞穴と、人口のトンネルの入り混じった通路の先で、待っていたのは砂漠の太陽。
 焼け付く日差しが、彼らを迎えた。


 そこに、ぽつんと存在する、周囲と不釣合いな建造物。
 銀色の外壁に囲まれたそれは、巨大なかまぼこのような形をしていた。


「おや、来てしまいましたか――……」
 一人の若者と、数人の兵士が、建造物の前で彼らを迎えた。
 照りつける日差しをものともしない、涼やかな態度の若者を見て、フィナが言葉を失う。
「嘘――!?」

(どうして、きみが)
 ゼクトの疑問に、答えてくれる者は無い。
 目の前の若者は、優雅に微笑んだ。

「久しいですね、ゼクト。皆さんも、ご達者で何より」
 丁寧な振る舞いも、柔らかな物腰も、何かを奥底に封じた色の薄い瞳も、完璧に、本人のそれ。
 目の前の存在が偽者だというのなら、本当によく、真似られたものだと思う。
 ザッ、とルイスが一歩踏み出して砂を散らす。肝の据わり方が尋常でないはずのフィナが、何かを感じ取り、目を剥いたまま、ひ、と息を飲んで一歩後ずさる。
「おや、どうされました」
 声色は、あくまで穏やかに響く。

 一人一人が、隠された危険に気づき、気圧される中で、唯一、ゼクトだけが動じない。
「ルイス――」
 ゼクトは、ただ、そこに立ったまま、憂える青い瞳で、ルイスを見た。

 にこにこと笑いながら、美しい若者は、炎天下の砂漠に似合わぬ涼しげな顔で、言葉を紡ぐ。
「別に、取って食いやしません。というか、ここに来たということは、皆さんお気づきですね? ……そう、ここは戦乱後の再建・復興のための大事な拠点。その気がおありでしたら、貴方がたも『こちら側』に、ご招待致しま――…」

「ふざけないで!」
 フィナの黒髪が、額や首筋に張り付いているのは、暑さのせいばかりではない。
 それでも、今のルイスとまともに対峙できるだけで、見上げた胆力だった。
「争乱を故意に起こしておきながら、人々が争っているのを傍観、それでいて、戦乱を鎮めた暁には、統治者? 何様のつもり? 絶対に、協力できないわ」

 言ったあとで、フィナがちらりと他の者を見やった。彼女自身の意思はそうであっても、誰かの意見は違うかもしれない。――そう、彼らの共通点は、たった一時期、同じ『家』に暮らしていただけ。性格、趣味、嗜好、境遇も、思惑さえもばらばらだ。

 だが今、全員の視線は、フィナではなくルイスに向いている。そして、誰もフィナの言葉に異議を唱えない。
 徹底抗戦。
 立ちはだかるルイスと、その背後にあるものが、とてつもなく不気味で巨大に見えたとしても。
 悪党同士、つるむ仲間がいる以上、簡単に負ける気がしない。
 ならず者には、ならず者の、意地がある。



「――ルイス。考え直してくれ」
 日頃、軟弱とも取られるゼクトだが、今は、強い意思を持って、かつて『家』で暮らした若者に呼びかけていた。

 咎めるような眼差しで、ルイスは、答えない。


 焼け付く日差しの中、蜃気楼の中で、時さえ止まりそうな錯覚を打ち破ったのは、無精髭の顎を撫でながらの、ジークの軽口だった。


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